AI時代に、社長が「決めきらない」という選択

アドベントカレンダー25日目、最終日ということで、
「書かないといけないな」と思いながら、何を書こうか少し迷っていました。
今回のアドベントカレンダーは、特にテーマを決めたわけではなかったのですが、
社員それぞれが思い思いのことを書いてくれていて、正直とても良かったなと思っています。
「こういうメンバーの会社に入りたい」と思ってくれる人がいたら、それはすごく嬉しいことです。
今日はどちらかというと外向けというより、
自分たちの社員に向けて、今の自分の考えをちゃんと残しておきたいと思って書いています。
経営は「探索」と「収穫」を同時にやる仕事
よく言われる話ですが、経営には
Exploration(探索)と Exploitation(収穫)の両方が必要だと言われます。
日本では「両利きの経営」と呼ばれることも多いです。
既存の事業を伸ばしながら、
同時に次の可能性を探し続けないと、企業はどこかで必ず止まります。
本来、社長という役割は
この2つを同時に考え続ける立場にあります。
ただ、ここ数年でそのバランスの難易度が一気に上がったと感じています。
2023年以降、Rimoで前提が実際に壊れた
2023年以降、ChatGPTをきっかけに、
経営の前提が「連続的に変わる」のではなく、
断絶的に壊れるようになりました。
Rimoでも、実際にいくつかの前提が崩れ、
判断を変更せざるを得なかったものがあります。
「日本語特化」は、技術的な強みではなくなった
Rimoを立ち上げた当初、
日本語特化という戦略には、明確な理由がありました。
日本語は敬語や文脈が複雑で、
音声認識や文章理解は、ネイティブでないと細かい品質が出ない。
だからこそ、日本人エンジニアが丁寧に作る価値があると考えていました。
実際、当時は合理的な前提だったと思っています。
ただ、LLMが主流になり、
「人間がロジックを設計する」のではなく
大量のデータを学習して勝手に理解する世界に変わりました。
正直に言うと、
「日本語特化」という前提は、技術的にはほとんど意味を失いました。
今では、日本語も文化も、
LLMは人間が想像していた以上のレベルで理解します。
日本語特化は、
マーケティング上はまだ意味があるかもしれませんが、
少なくとも技術戦略としての差別化ではなくなりました。
エンジニアリング領域に行けば伸びる、という前提も崩れた
もう一つ、実際に撤回した判断があります。
今年の初め頃、
自分たちはエンジニアリング組織だから、
エンジニアリングを効率化する領域もやるのもいいのではないかと考えていました。
自分たちが日々使うツールを作りながら、
そのまま事業につなげられるのではないか、という発想です。
ただ、少し経ってそれが大きく誤りであったことに気付かされます。
Claude、Codex、Gemini、OpenAI。
ほぼすべての巨大プレイヤーが、同じ領域に一気に入ってきた。
「良さそうだ」と思う領域は、
当然、みんなが同じように思います。
実際、Claude Codeのリリース日が2025年2月24日です。
結果として、去年は本気でいけると思っていた判断を、
「これは勝てない」と思い直して撤回することになりました。
正しかった判断を、実際に撤回してきた
Rimoではここ数年で、
日本語特化を技術戦略の核には置かない
エンジニアリング領域への横展開を深追いせず
「作れるからやる」ではなく「勝てるか」で考える
という判断変更をしてきました。
外から見ると、
「相川さん、もっとちゃんと決めてほしい」と思われるかもしれません。
でもこれは迷いではなく、
前提が壊れたことを認めた結果だと思っています。
それでも、過去の判断は無駄ではなかった
前提は壊れましたが、
積み上げたものまで壊れたわけではありません。
日本語特化でやってきたからこそ、
APIを使う側でも活きる評価セットを作る力
ただの日本語でなく日本の文化や慣習まで意識した設計
実際に良いと思ってくれて使っている日本の企業ユーザー様
を得ることができました。
前提は変わる。
でも、経験が消えるわけではない。
この感覚は、これからの探索においても重要だと思っています。
だから僕は、決めたことを見直し続けたい
こうした経験から、
自分は一度決めたことでも、
前提が変わったと感じたら見直す社長でいたいと
思うようになりました。
過去に決めたことを前提にしたまま進むことが、
結果としてリスクになる場面も増えてきたと感じています。
判断を見直すことで、現場に迷いや負荷がかかることがあるのも理解しています。
だからこそ、判断を見直すときには、
「何が前提として変わったのか」をできるだけ言葉にして伝えていきたいと思っています。
探索は分散した方が強い。でも、方向性は揃えたい
ここで誤解されないように書いておきたいのは、
「それぞれが好きな方向に進めばいい」という意味ではありません。
前提がこれだけ速く変わる世界では、
会社として向かう方向を揃えることは、以前よりも難しくなっていると感じています。
だからこそ、一番考える責任は自分が引き受けたいと思っています。
前提が変わったと判断したら、
なぜ変えたのか、どこまでが変わって、どこは変わらないのかを
できるだけ言葉にして共有する。
その上で、変化についてきてほしい。
探索のヒントや気づきは分散していた方が強い。
でも、最終的に方向性を揃えるのは社長の仕事。
今の自分は、そのバランスを取りにいっているつもりです。
このアドベントカレンダー自体が、今のRimoを表している
こうして振り返ると、
このアドベントカレンダー自体が、今のRimoの状態をよく表している気がしています。
誰かが用意した正解に沿って書くのではなく、
それぞれが今考えていることを、それぞれの言葉で書く。
まとまってはいないけれど、ちゃんと「考えている痕跡」が残っている。
前提がこれだけ速く変わる時代に、
こういう状態でいられること自体が、実はかなり大事なんじゃないかと思っています。
25日間、ありがとうございました
今回のアドベントカレンダーは、
テーマも細かい指示も決めないまま始めました。
それでも、
それぞれが自分の言葉で考え、書いてくれた。
それを読んでいて、
「今のRimoって、ちゃんと考える人が集まっている会社だな」と
改めて思いました。
前提がこれだけ速く壊れる時代に、
最初から完璧な答えを持っている人はいません。
社長である自分も同じです。
だからこそ、
決めきれないことも含めて、
考えたことを言葉にして共有しながら、
一緒に探索していける会社でありたいと思っています。
25日間、書いてくれたみなさん、本当にありがとうございました。
そして、ここまで読んでくれた方にも感謝します。
また来年、
今とはきっと違う前提の上で、
それぞれの言葉が並ぶアドベントカレンダーを
一緒に作れたら嬉しいです。