なぜRimoのカレンダーに「War Room」が生まれたのか

こんにちは、Rimo代表の相川です。
先日、うちの会社のカレンダーに「War Room」という会議を入れました。社内でも「これ何ですか?」と聞かれたので、今日はその背景をきちんとお話しします。AIとスタートアップ経営が交差する、核心の話です。
きっかけは、前田ヒロさん(ALL STAR SAAS FUND)がアメリカ視察の感想をシェアしていた記事でした。記事の主題は「ラストワンマイル」。モデルそのものはものすごい勢いで進化しているけれど、それを実際の業務にちゃんと応用しきるところはまだまだ手付かずで、だからこそ伸びしろがある、という話です。その中に出てきた「戦時モード」という言葉が、強く引っかかりました。
「戦時モード」が当たり前になった
その記事によると、アメリカの起業家の多くが「自分たちは戦時下にいる」と語っていたそうです。会議室に「War Room」を構える会社まである。速く動くこと、時に何かを壊しながら進むことが、デフォルトのスピードになっている。ある会社では全員が朝5時に出社して夜9時まで働き、土曜は休みでも日曜にはミーティングやリモートワークが走っている、と。
AIは人をより速く動かします。そして同時に、会社同士の競争を一段と激しくしている。チャンスもまた、はるかに早く、大きくなる。
その結果、計画の更新頻度が一気に上がります。四半期や半期のOKRを立てて、その通りに走り切る。この当たり前だったリズムが、もう通用しなくなっている。 立てた目標が、達成する頃には的外れになっていることすらある。記事には、プロダクトのロードマップを毎週見直している起業家の話も出てきました。
読んでいて、「いや、本当にそうだな」と思いました。
うまくいっているのに感じた違和感
Rimoは正直、けっこう順調です。スピードも上がっている。でも最近、なんとなく違和感がありました。前田さんの記事は、その違和感をきれいに言語化してくれた気がします。
速くなると、いろんなものが速く進みます。私は外部環境を見て、あるメンバーはNPSやプロダクトの内部情報を見て、別のメンバーは海外の開発チームを見ている。みんなが一生懸命、それぞれの持ち場を前に進めてくれている。でも気づくと、それぞれが持っている情報に、静かな断絶が生まれていました。
「同じ情報を持っていれば、人はだいたい同じ結論にたどり着く。」
逆に言えば、意思決定がぶつかる原因は、頭の良し悪しよりも、見ている情報の違いであることが多い。ところがスピードが上がると、その情報の差が開きすぎる。「自分はこれをやるべきだと思っているのに、相手はそっちをやろうとしている」という状態が増えます。反対の意見を一つずつ擦り合わせる作業は、難しいうえに、精神的なコストがとても高い。速くなるほど、このズレを直す時間がボトルネックになっていく。これをどうにかしたい、というのが出発点でした。
平時と戦時、そしてAIが変えた前提
「War Room」は、実はかなりハイコンテキストな言葉です。元ネタはベン・ホロウィッツの名著『HARD THINGS』です。ベン・ホロウィッツはNetscapeの元エンジニアで、自身が創業したOpswareをHPに約1,700億円で売却後、マーク・アンドリーセンとともにシリコンバレー屈指のVCであるa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)を設立した人物です。スタートアップ経営の過酷な現実を正面から語ったこの本は、今も世界中の起業家に読まれ続けています。
そこに「平時のCEOと戦時のCEOは違う」という話が出てきます。平時のCEOは、文化を育て、人を育て、権限を委譲し、プロセスを整え、合意形成をする。戦時のCEOはほぼ逆です。合意形成はせず、CEOが決める。権限委譲もせず、最重要事項は自分で直接見る。マネジメント階層を飛び越えて指示することもあるし、人やトップを入れ替えることもある。文化よりも、まず生存。戦時の軍隊は民主主義ではない、というわけです。
ただ、この本は10年以上前のもの。しかも本自体が「戦時モードを続けると組織は崩壊するから、平時と戦時を行き来したほうがいい」と書いている。10年以上前の本が今でも通用するか、試しにAIに聞いてみました。返ってきた答えが鋭かった。
市場・プロダクト・技術は戦時。でも組織は平時で扱えばいい。
すべてを同じモードでやる必要はない、という整理です。さらにもう一つ。これまで「CEOが全部見る」には膨大な労力が必要で、だからこそ持続できなかった。けれど今は、AIの助けを借りて、情報がCEOのもとに集まってくる構造を作れる。戦時の意思決定の速さを、組織を壊さずに手に入れられるかもしれない。 この発想は、自分にとってかなり大きいものでした。
Rimoが作った「War Room」
そこで私たちもWar Roomを作りました。
本来のWar Roomは、専用の部屋に情報を集約し、毎朝そこに主要メンバーが集まって働く、というもの。それに使えるほどの部屋がないので、週2回の会議とチャットで代替しています。会議の名前が、そのまま「War Room」です。ここから始めて、少しずつ本来の形に近づけていくつもりです。
まず決めたのは、今うまくいっているものには、むやみに手を入れないことです。Rimoは別に売上がやばいわけではないし、大きく何かを壊さないといけない局面でもない。そこに無理やり戦時のやり方を持ち込むと、うまく回っているものまで壊れかねません。とくに売上に直結する営業まわりは、今回あえて触らない。だから初回は、開発側の上位層、ほかのメンバーに影響を与えられる意思決定者だけで始めました。
やりたいことはシンプルです。密に情報を集め、前提をそろえてから意思決定する。 会議の最初の10〜15分で「今はこういう状況だよね」をHTMLやスライドで確認し合い、そこから優先順位を決め、仕事を始める。そして決めたことが、滞りなく各メンバーへ流れていく。最終的には、顧客の声がそのまま吸い上がり、こちらの意思もそのまま顧客まで届く——いわば、AIで組織の神経網をつくるイメージです。
運用ルールはまだ手探りですが、一つ決めていることがあります。情報がそろえば、たいていは合意できるはず。だから不要に争うことはしたくない。基本は私の意見を前提に動いてもらう。もし違うと思うなら、反対意見そのものではなく、私の判断を変えるに足る「情報」を持ってきてほしい。 議論の燃料を、意見から情報へ移したいと考えています。
速さが変えた、計画と採用の前提
スピードの話に戻ります。
目標サイクルを、約1年前に3か月から2か月に縮めました。でも、これでもまだ難しい。理由は二つあります。一つは、前提がすぐ変わること。新しいモデルが出るたびに、立てたばかりの計画が古くなる。もう一つは、2か月でできることが増えすぎていること。体感で3倍以上は速くなっているので、期間を2/3に縮めても追いつかない。同じ期間でも盛り込むべき量が膨らむ。それを1日以内に立て切ろうとすると、計画自体への納得感が薄くなる。前田さんの「ロードマップを毎週見直す」が、肌感覚として刺さりました。
だから今は、新しいプロダクトをどんどん出すことよりも、社内の情報をきれいに集約する仕組みと、「作れば、AIの力だけでプロダクト品質のものやWebページがそのまま出てくる」状態を整えることに、リソースを寄せています。
採用の基準も変わりました。Fable 5を実際に触ってみたら、ちょっと複雑なコードを書ける程度の人員をわざわざ雇う必要がなくなった。前日まで「採用しよう」と思っていた前提が、たった1日で崩れた。この速さが、今の現実です。
これはかなり踏み込んだ経営判断で、本来は社外に出したくない、競争優位になりうる部分です。それでも公開するのは、アメリカではもう当たり前にやられていることだから。競合が増えるリスクを差し引いても、日本の多くの会社がこのスピードを前提に動いたほうが、全体としていい。私はそう思っています。
そして何より、Rimoのメンバーがこれを読んで「なるほど」と思ってくれたら、すごくうれしい。前提が毎週変わる世界は、しんどくもあるけれど、面白い。一緒に、この速さの中でいいものを作っていきましょう。
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