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インサイトの意味は?マーケティング活用から組織運営の改善事例までを徹底解説

ビジネスの現場では近年、インサイトの活用が進んでいます。
マーケティング・組織運営・人材マネジメント・働き方の改善など、企業のあらゆる場面で取り入れられるようになりました。
目に見えている情報だけでは本質的な課題を捉えきれない場面で、行動の背景にある心理や動機を理解するための視点として注目されています。
本記事ではインサイトの意味から企業の活用事例までを整理して解説します。
ぜひ本記事をとおして、事業成長に活かすためのヒントを掴んでください。
インサイトの意味は?
目に見える出来事だけで判断せず、その背後にある心理まで掘り下げて理解しようとする視点がインサイトです。表面の情報から一歩踏み込み、意味や背景を読み解く洞察の過程を指します。
マーケティングでのインサイトはさらに狭義で、顧客自身が気付いていない潜在的な欲求や行動の背景を指します。
項目 | 広義のインサイト | マーケティングにおける狭義のインサイト |
|---|---|---|
対象 | 人の行動全般 | 消費者の行動・購入心理 |
目的 | 物事の本質理解・問題の洞察 | 売れる理由の把握・価値提案に活用 |
視点 | 背景・動機・文脈を見る | 顕在化していない購買動機を掘り下げる |
特徴 | 観察から理由を考え意味づけする | ユーザー本人は気付いていない本音を発見 |
マーケティングにおけるインサイトとニーズの違い
「顕在ニーズ」「潜在ニーズ」「インサイト」がマーケティングではよく混同されます。
いずれも顧客理解の軸となる概念ですが、示している粒度は大きく異なります。まずは3つの違いを整理しておくことで、どのレイヤーを捉えるべきかが明確になるでしょう。
以下が顕在・潜在ニーズとインサイトの違いです。
顕在ニーズ | 顧客が自分で言語化できている「ほしいもの・困っていること」 |
潜在ニーズ | 本人は明確に言語化できていないが、改善の余地がある期待や課題 |
インサイト | 行動の裏にある無自覚の心理や動機 本音や行動理由の深層部分 |
本章では各項目を具体的に掘り下げ、実際のマーケティングでどのように使えるのかを解説します。
顕在ニーズ
「◯◯がほしい」「△△が不便」などユーザーが自覚し、言葉として明確に表現できる要望が顕在ニーズです。
課題がはっきりしているためアンケートや口コミでも把握しやすく、市場調査を行えば多くの企業が同じニーズに気付けるケースがほとんどです。
例えば以下のような要求は顕在ニーズにあたります。
もっと安いサービスがほしい
配送を早くしてほしい
操作が難しいのでもっと使いやすくしてほしい
ただし、顕在ニーズは競合も把握している可能性が高く、マーケティングでは差別化になりにくい性質があります。
つまり顕在ニーズに応えるだけでは、商品の価値を大きく高めるのが難しい場合が多いのです。
潜在ニーズ
ユーザーが自覚していないものの、行動や選択の背景に潜んでいる欲求が潜在ニーズです。
「言われてみればそうかもしれない」というレベルの課題であり、ユーザー自身の発言としては表面化しにくいのが特徴です。
顕在ニーズと比べると価値提供の余地が大きく、潜在ニーズを捉えると新しい訴求軸やプロダクト改善の方向性が生まれやすくなるでしょう。
例えば以下のような言語化されていない期待に応えると、競合との差別化がしやすくなります。
忙しい人が時間を節約したい
選ぶ手間を減らしたい
迷わずスムーズに使える仕組みがほしい
さらに深い心理まで踏み込むインサイトとは異なり、潜在ニーズは行動の背景にある期待や不満を捉える段階といえます。
インサイト
潜在ニーズのさらに奥にある、ユーザーの感情・価値観・動機といった深層心理を指す概念がインサイトです。「本当は◯◯したい」「△△が不安だ」など、行動の根源となる理由にあたります。
本人も無自覚であることが多いため定量データだけでは見つかりにくいのが特徴です。観察・インタビュー・行動ログなど多角的な分析から仮説を導く必要があります。
以下のような心理を捉えられると、インサイトを得られます。
失敗したくないから評判の良いものを選ぶ
周りに知られたくないから簡単に続けられるものを求める
考える負担を減らしたいから、自動化されたサービスを選ぶ
インサイトを捉えられるとユーザーが行動する本当の理由が見えるため、訴求や価値設計の軸が大きく変わるでしょう。
インサイトを活用する企業が増えている背景
現代は情報量が爆発的に増え、データや事実だけを追っても状況の本質を捉えにくくなっています。
人の行動の背景には数値では見えない「理由」「感情」「価値観」が存在し、それらを理解しなければ解決策が表面的なものに留まってしまうでしょう。この課題意識の高まりとともに、インサイトを活用する企業が増えています。
インサイトはマーケティングで注目されがちですが、組織運営・働き方の設計・チームの意思決定にも応用可能です。
メンバー同士の意図や関係性を洞察すると、会議の質向上・人材定着・生産性向上に繋がります。
さらに近年は行動ログを可視化するツールが普及し、深層の傾向を抽出しやすくなった点も追い風になっています。データと洞察を掛け合わせ、本質的な成長を目指す企業が増加しているのです。
マーケティングにおけるインサイトの見つけ方
インサイトは感覚や想像だけでは導けません。データや顧客の声を素材として観察し、その奥にある心理を読み解くプロセスが必要です。
本章では、マーケティング現場で実際に活用されている4つの手法を紹介します。
ユーザー行動データから仮説を立てる
顧客の声から深層心理を探る
カスタマージャーニーを分解する
フレームワークを活用する
具体的なインサイトの探り方を見ていきましょう。
ユーザー行動データから仮説を立てる
行動データでは、ユーザーがどこで迷い、何に価値を感じ、どの選択で購入に至ったかといった行動背景を読み取れます。マーケティングで活用される主なデータは以下の通りです。
購買履歴
アプリ操作ログ
Webサイトでの閲覧導線
SNS上での反応
これらを単体で見るのではなく組み合わせて分析すると、行動理由の仮説が立てやすくなります。
データは「事実」ですが、インサイトに近づくには「なぜそうしたのか?」の推測が欠かせません。
例えば、同じ商品ページを何度も見た人は「失敗したくない」という心理がある可能性があります。データ→仮説→検証を繰り返すと行動の深層にある動機へ辿り着けます。
顧客の声から深層心理を探る
インタビューや口コミなどの「生の声」には、行動の理由となる感情・価値観が潜んでいます。
ただし、インサイトは顧客が言葉として語る内容そのものではありません。重要なのは発言の背景にある不安・期待・こだわりを丁寧に読み解く姿勢です。
例えば「もっと早く届けてほしい」と言う場合、その裏には「待つ時間がストレス」「すぐ手元にほしい価値」の心理が隠れているかもしれません。
そのため、顧客の声は表面的に受け取るのではなく、言葉の選び方・迷い・感情の揺れなど細かな部分まで観察する必要があります。
顧客の声からインサイトを探索するには以下の方法が有効です。
インタビュー
レビュー分析
SNS上の反応を拾うソーシャルリスニング
発言の奥にある動機を深掘り、行動の根拠となる本質的な気持ちを探りましょう。
カスタマージャーニーを分解する
ユーザーが商品を認知してから検討・購入・利用・リピートに至るまでの流れを可視化する手法がカスタマージャーニーです。
このプロセスをフェーズごとにわけ、各段階での感情・行動・障壁を整理すると何が意思決定のきっかけになったのかを把握できます。
スキンケア商品を購入するユーザーを例に、以下でカスタマージャーニーを分解してみました。
フェーズ | 行動 | 感情 | 障壁 |
|---|---|---|---|
認知 | SNSの投稿を見る | なんとなく興味 | まだ必要性を感じていない |
検討 | 成分や口コミを調べる | 効果に期待 | 本当に合うかわからない |
購入 | 最終的に公式サイトへ | 試してみたい | 価格などほかの商品との比較で迷う |
利用 | 実際に利用する | 良さを実感 不満も確認 | 継続するほどではない可能性 |
リピート | 定期購入を検討 | 効果への満足感 | 価格と価値のバランスで判断 |
このように可視化すると、例では「検討〜購入の間に不安が生まれる」「リピートは効果の実感が鍵になる」など、行動の裏にある心理が明確になります。
ここから「購入の決め手は安心感」「継続には効果の証明が必要」などのインサイトに繋がるのです。
フレームワークを活用する
インサイトを可視化するには、まずジョブ理論(JTBD)を軸に考えることが重要です。
JTBDとは、人は製品を買うのではなく「達成したい目的(ジョブ)」を叶えるために選択しているという考え方です。ただしジョブは抽象度が高いため、整理には視点を分解できるフレームワークを活用しましょう。
そこで役立つのが JOBSメソッドです。以下でロボット掃除機を例に紹介します。
項目 | 内容 |
|---|---|
Job(やりたいこと) | 部屋を清潔に保ちたい |
Objectives(目的) | 掃除に時間を奪われたくない |
Barriers(障害) | 忙しくて手動掃除が続かない |
Solutions(代替手段) | 週末まとめ掃除・家事代行 |
この分析から、消費者は掃除が嫌いなのではなく、放っておいても部屋が綺麗になるストレスフリーな生活を求めていると考えられます。
組織運営の課題からインサイトを導くプロセス
組織課題の多くが表面的な問題だけに対応しているからです。行動の背景となるインサイトを掴むと課題の根源に近づけます。
組織運営の課題からインサイトを導くために、以下のステップで整理していきましょう。
業務データを可視化する
メンバーの声を拾う
フレームワークを活用する
それぞれ詳しく紹介します。
1.業務データを可視化する
組織の課題を発見するには、まず日々の業務データを見える化しましょう。
普段は属人的に判断されがちな情報を数字で把握すると、どこにボトルネックがあるのかが明確になります。可視化する主な業務データは以下のとおりです。
ツールの利用状況
タスクの遅延
会議時間
チャットの返信速度
データ傾向を追うと業務が滞りやすい曜日やチーム、負担が集中している工程などが浮き彫りになり、改善すべき領域が特定できます。
事実にもとづいて整理すると、次のステップで拾う現場の声と組み合わせたときにより深いインサイトに繋がります。
2.メンバーの声を拾う
業務データで現象を捉えたら、次はメンバーの声から背景にある理由を探ります。
声を拾う方法として以下が挙げられます。
アンケート
1on1
チャットログ
メンバーの意見を聞くと数字には表れない不安・葛藤・負担感が表面化しやすく、本音に近い課題を掴む手がかりとなるでしょう。
例えば「タスクが遅れる」という事実も、その裏には「確認フローが複雑」「相談しづらい空気がある」など、心理的な障壁が潜んでいる場合があります。
曖昧な表現や言い淀み、繰り返し挙がるキーワードにも注目すると改善ポイントがより立体的に見えてきます。
3.フレームワークを活用する
業務データとメンバーの声を集めたあとは、本質的な課題に迫るフェーズに入ります。ここでは思考を構造化できるフレームワークが役立ちます。
課題の根本原因を特定する際に有効なフレームワークは以下の3つです。
フレームワーク | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
5Whys | 事象に対して「なぜ?」を繰り返し、原因が出なくなるまで掘る | タスクが遅れる → なぜ?→ 承認待ち → なぜ?→ 上長の負荷過多 |
ロジックツリー | 課題を大枠→中分類→小分類へと階層的に分解して整理 | 大枠:業務遅延 中分類:①人②仕組み③優先度 小分類:さらに枝分けし要因を展開 |
特性要因図 (フィッシュボーン) | 主原因を軸に「人・方法・環境・情報」などへ要因を枝状に整理 | 会議が長い→原因を人(発言偏り)・方法(議題不明)などに分類 |
思考を型に沿って整理するとインサイトが浮かび上がり、改善施策に落とし込みやすくなります。
インサイトのマーケティング活用事例
インサイトは実際に企業のマーケティング成果に結びついてこそ価値が生まれます。
本章では顧客心理を的確に捉え、ブランド戦略や商品開発に成功した企業の事例を紹介します。
P&Gジャパン合同会社
日清食品株式会社
株式会社野村総合研究所
順に見ていきましょう。
P&Gジャパン合同会社
ファブリーズ開発当初、消費者調査では購入意向が低く「使う機会がない」という意見が大半でした。
データだけを見れば商品化は見送られていてもおかしくありませんでしたが、P&Gはテスト販売を継続し、少数のヘビーユーザーの行動に焦点を当てて追加リサーチを実施。
そこで判明したのは、消臭したい時だけ使うのではなく掃除ルーティンの一部として日常的に使われているという事実でした。
このインサイトをもとに訴求を「臭い対策」から「毎日使う習慣」へ転換。広告・プロモーションも生活導線に寄せた設計に変更した結果、使用機会が拡大し市場は約10年で2倍へ成長しました。
出典:データでは「売れない」ファブリーズ大成功の理由 消臭芳香剤市場を2倍にした商品の意外な真実 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン
日清食品株式会社
カップヌードルは発売45周年を迎えた2016年、主要顧客だった若年層が60代に達した一方で、シニア層の購買率が低下していたことが課題でした。
そこで日清食品は一括りに「高齢者=健康志向」と捉えず、SNSを使いこなすアクティブシニアへ観察対象を絞り込みました。
その結果、健康のために我慢しているのではなく、実は「おいしいものを自由に楽しみたい」という本音が浮かび上がったのです。
このインサイトを受けて誕生したのが、贅沢なスープにこだわり健康にも配慮した「カップヌードル リッチ」です。新聞広告など親和性の高いメディアを活用し、発売7ヶ月で1,400万食を突破するヒット商品となりました。
出典:消費者を動かす心のスイッチ「インサイト」を掴んで新市場を切り開く |MarkeZine 第20号
株式会社野村総合研究所
野村総合研究所(NRI)は、153の広告施策を対象に、広告接触による認知・購入意向・利用意向の変化を共通指標で測定し、その効果が高かった施策を「広告効果賞2024」として選定しています。
評価において重視されているのは「生活者の価値観・感情の動きを促せたかどうか=インサイトを捉えたコミュニケーションか」という視点です。
「ミノン」「完熟トマトのハヤシライスソース」など受賞施策では、安心感・時短・共感といった心理の変化を生み出し、商品の魅力ではなく「使いたくなる理由」に働きかけた点が評価されました。
NRIの分析は、インサイトを軸にした広告設計が実際に消費者の行動を動かしたことをデータで示しています。
出典:広告効果賞2024を発表 | お知らせ | 野村総合研究所(NRI)
データの可視化でインサイトを引き出した企業事例
組織運営・働き方改善の領域で成果を生んでいる企業として以下が挙げられます。
McChrystal Group
Worklytics
Rimo合同会社
この3社はデータから真因を読み解いた結果、生産性・離職防止・働き方改善に直結する示唆が生まれるようになりました。
データの可視化でインサイトを引き出した事例を順に見ていきましょう。
McChrystal Group
McChrystal Groupは、グローバル展開する大手メーカー企業に対し、業務データを可視化することで離職とバーンアウトのリスクを特定しました。
Microsoft Viva InsightsとONA分析を活用し、8,000名超の社内コミュニケーションデータを解析。その結果、過剰な会議・上層部の過度な連携・新入社員のネットワーク不足が生産性低下と早期離職の主な要因として浮かび上がりました。
インサイトをもとに「会議設計のルール化」「ネットワーク拡大施策」「オンボーディング改善」に着手。結果として集中時間の確保・業務優先度の明確化が進み、定着率向上へ繋がりました。
出典:Harnessing Data to Identify Burnout Early and Boost Retention | McChrystal Group
Worklytics
Worklyticsは、GoogleカレンダーやMicrosoft 365などの予定データを分析し、会議過多による生産性低下を可視化するプラットフォームを提供しています。
カレンダーの滞在時間・連続会議・集中時間の割合などを指標として抽出し、無駄な会議・長すぎる定例・参加者過多といった非効率の要因を発見。
さらに、集中時間を守る「ノーミーティング時間」の自動設定や、会議削減の効果測定も可能です。分析にもとづき会議設計を最適化すると、企業は最大40%の集中時間を取り戻し、燃え尽き防止と業務効率向上を同時に実現しています。
出典:Calendar Analytics Playbook: Reducing Meeting Overload to Reclaim 40 % Focus Time
Rimo合同会社
Rimo合同会社は、会議の履歴から「長時間化した定例」「過剰な参加者」「多すぎる会議数」などを可視化するタイムインサイト機能を提供しています。
カレンダーを連携するだけで個人やチームごとの会議負荷をデータ化し、どこにムダがあるかを一目で把握できる点が特長です。


AIによる会議の統合提案や参加者最適化の提示も行うため、不要な会議の削減や時間の使い方の改善を図っています。
また、議事録の内容から関連資料などを自動でレコメンドできるため、会議後のキャッチアップをスムーズに進めることが可能です。

これらの機能により、組織として会議の運用を見直し、生産性を引き上げるインサイトを引き出すことに成功しています。
会議の生産性を本気で上げたいなら『Rimo Voice』

『Rimo Voice』は議事録作成の自動化だけでなく、会議の前後に発生する面倒な作業を丸ごと任せられるAI会議ツールです。
会議設定をしておくだけで発言内容の要約・論点の整理・決定事項の抽出・担当タスクの書き出しまで自動で処理をします。参加者は記録に追われないため、議論に集中できる環境が整うでしょう。
さらにタイムインサイト機能では、カレンダーと連携するだけで会議の頻度・所要時間・参加人数などを定量化し、負荷の高い定例や非効率なミーティングを可視化しています。
どの会議にどれだけ時間が使われているかを俯瞰できるため、削減すべき会議や改善ポイントを明確にできます。
『Rimo Voice』では無料トライアルも実施しているので、ぜひこの便利な機能をご体感ください。
インサイトの意味を正しく理解し、事業成長に活かそう
インサイトとは人の行動の理由や価値観まで踏み込んで本質を捉える洞察であり、マーケティングでは消費者が気付いていない購買動機まで掘り下げる概念として扱われます。
インサイトの活用によって、マーケティングでは刺さる訴求が可能になり新市場の開拓や商品開発の精度向上へ繋がります。
一方組織運営では、会議負荷や離職の背景など表面化されない課題を特定し、働き方改革や生産性向上に直結する改善策を導くことが可能です。
ぜひ本記事を参考に、インサイトを活かして事業成長に繋げてください。
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