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RAGの活用事例13選|部門・業界別の導入効果と成功のポイント

「社内のルールや過去の対応をAIに答えさせたいが、もっともらしい誤回答が出ないか不安だ」
「RAGの仕組みは理解したが、自社のどの業務に使えるのか具体的にイメージできない」
「他社がどんな成果を出しているのか説明できる材料がない」
RAGへの関心は高まっているものの、このように感じて導入を踏み出せない方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、RAGの活用事例を業務別に7つ、企業・自治体の導入事例を6つ紹介します。活用が広がる背景、導入を成功させる5つの条件、失敗しやすいパターンと対策を解説します。
事例と成功条件を押さえ、自社に合った導入の進め方を見つけましょう。
RAGとは|社内情報を根拠にAIが回答する仕組み

RAG(Retrieval-Augmented Generation)とは、生成AIなどが回答を作る前に、社内文書やデータベースから質問に関係する情報を検索し、その内容を回答の根拠として使う仕組みです。
一般的な生成AIは、自社の社内規定や業務データを標準では参照できません。そのため「出張旅費の申請上限はいくらか」「10%以上の値引きには誰の承認が必要か」といった自社固有のルールには、正確に答えられない場合があります。
一方でRAGは、質問を受けたあとに社内規定やマニュアルなどを検索し、見つかった情報をLLMに渡してから回答を生成します。この手順を挟むことで、公開情報だけでは答えられない社内固有の質問にも対応しやすくなります。
ただし、RAGを導入すれば回答が必ず正しくなるわけではありません。必要な文書を検索できなければ、正しい情報をLLMに渡せないためです。RAGを業務で使う際は、生成された文章だけでなく「正しい根拠文書を検索できたか」まで確認してください。
RAGの活用が広がっている3つの背景

RAGの活用が広がっている背景には、生成AIを業務で使う企業が増える一方、汎用的なAIだけでは自社固有の情報を扱いにくいという課題があります。活用が広がっている理由は、主に次の3つです。
背景 | これまでの状況 | 現在の変化 | RAG導入への影響 |
1. 生成AIの誤回答(ハルシネーション) | 生成AIの回答を業務で信用しにくかった | 社内文書を回答の根拠として示せるようになった | 試用から業務利用へ進めやすくなった |
2. 社内データの資産化 | 知識が個人や部署に分散していた | 社内ナレッジを経営資源として扱う意識が広がった | 社内文書がAIの参照対象として位置づけられた |
3. データの電子化 | 紙や口頭の情報は検索しにくかった | PDF・議事録などが電子データで蓄積された | RAGに読み込ませる素材が増えた |
それぞれの背景を、もう少し詳しく見ていきます。
1つ目は、社内情報を参照することで生成AIの誤回答を抑えやすくなったことです。社内規定について一般的な生成AIに質問しても、自社の最新ルールを反映した回答が返ってくるとは限りません。RAGなら社内文書を検索して回答の根拠にできるため、自社固有の情報にもとづいて回答しやすくなります。
2つ目は、社内データを経営資源として活用する動きが加速していることです。RAGを使えば、個人の記憶に頼らず、既存の資料をAIが参照できる判断材料に変えられます。
3つ目は、社内データの電子化が進み、RAGに活用できる素材が増えていることです。紙や口頭で管理されていた情報に加え、PDF、議事録、社内ポータルの情報がデジタル化・蓄積され、AIが検索できる範囲が広がっています。こうした環境整備が進んだことで、RAGを実際の業務に使いやすくなりました。
RAGを効果的に活用するには、AIの仕組みだけでなく、参照元となる社内ナレッジを継続的に蓄積・共有できる環境づくりも重要です。社内の情報をどのように集約し、組織全体で活用していくかを詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:ナレッジ共有(ナレッジシェア)とは?属人化を防ぐ完全ガイド&ツール12選
関連記事:ナレッジ経営とは?手法・成功事例を初心者向けにわかりやすく解説【2026年最新】
【業務別】RAGの活用事例7選|社内検索から営業支援まで

RAGは特定の業界に限らず、社内文書を検索して業務に使う場面であれば幅広く応用できます。
この章では、代表的な7つの業務別活用事例を解説します。
1. 社内問い合わせ対応|社内規定やマニュアルをAIが即回答する
2. カスタマーサポート|対応履歴などをもとにAIが回答を自動生成する
3. 営業支援|提案書や過去の案件から商談資料を作成する
4. 技術継承・製造現場|ベテランのノウハウをAIの判断材料にする
5. 法務・コンプライアンス|社内規定と法令をもとに判断を補助する
6. 新人教育・オンボーディング|社内マニュアルで新人の質問に即回答する
7. 調査・リサーチ|社内文書を横断検索して要約する
1. 社内問い合わせ対応|社内規定やマニュアルをAIが即回答する
就業規則、経費精算ルール、各種申請手続きに関する質問は、人事・総務・経理の担当者に集中しやすい業務です。同じ質問が繰り返されるたびに担当者の手が止まれば、本来の業務に割ける時間も減ってしまいます。
RAGで社内規定やマニュアルを検索対象にすれば、社員がチャットで質問した際にAIが根拠となる規定を添えて回答できます。参照元を表示すれば、社員自身が原文まで戻って確認できるため、担当者への問い合わせを減らせるでしょう。
社内資料を活用して専用のAIチャットを構築するサービスも登場しています。たとえばRimoナレッジAIは、社内資料をアップロードするだけで内容を解析し、情報検索だけでなく資料作成やリサーチにも対応します。
2. カスタマーサポート|対応履歴などをもとにAIが回答を自動生成する
問い合わせ履歴やFAQが複数のシステムに分散していると、オペレーターごとに回答の速度や品質が変わってきます。担当者が毎回同じ資料を探し直していては、対応時間も長くなる一方です。
RAGでFAQ、対応履歴、製品マニュアルを検索対象にすれば、問い合わせ内容に近い過去事例や関連資料を取得し、回答案を生成できます。最初から顧客へ自動送信せず、AIが作った回答案を担当者が確認する運用にすれば、誤回答のリスクを抑えながら利用範囲を広げられます。
3. 営業支援|提案書や過去の案件から商談資料を作成する
過去の提案書や商談記録が担当者ごとに保管されていると、似た条件の商談でも一から資料を作り直すことになります。有用な情報があっても、担当者がその存在を知らなければ活用されません。
RAGを使えば「同じ業界で価格が理由で失注した案件を探して」「A社との前回商談で出た懸念点をまとめて」と質問し、関連する資料や議事録を検索できます。検索した情報をもとに、提案の論点整理や商談資料のたたき台作成につなげることも可能です。
4. 技術継承・製造現場|ベテランのノウハウをAIの判断材料にする
製造業などでは、熟練者の判断が暗黙知のままだと、若手が同じトラブルに直面したときに解決まで時間がかかります。担当者が異動や退職で抜けると、それまでの経緯や判断理由をたどる手段そのものが失われかねません。
そこで、熟練者の対応内容や判断理由を記録として残し、設計資料や保守マニュアルとあわせてRAGの検索対象にします。若手技術者は質問を通じて、文書化された過去の判断や対処法を探せるようになります。
担当者の引き継ぎ場面でも、それまでの会議や打ち合わせの記録から経緯をすぐに調べられれば、後任者の技術習得を早められます。
このようにRAGを技術継承へ活用するには、ベテランが持つ暗黙知を、AIが参照できる形で記録・整理しておくことが重要です。暗黙知と形式知の違いや、属人化を防ぐための形式知化の進め方については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:暗黙知・形式知とは?違いや変換方法、属人化を防ぐ形式知化の実践法
5. 法務・コンプライアンス|社内規定と法令をもとに判断を補助する
法務担当者に定型的な確認が集中すると、重要案件に割ける時間が減ります。社内規定、契約書テンプレート、法令情報が整理されていなければ、確認のたびに関係部署へ問い合わせが発生します。
これらをRAGの検索対象にすれば、適用ルールや確認箇所をAIが提示し、契約審査や現場での確認を補助できます。
6. 新人教育・オンボーディング|社内マニュアルで新人の質問に即回答する
入社直後は「この申請はどこから行うか」「この社内用語は何を意味するか」など、既存社員には基本的な内容でも確認が必要になります。先輩社員の手が空くのを待つ環境では、学習のペースも落ちてしまうでしょう。
業務マニュアル、社内用語集、研修資料をRAGへ取り込み、いつでも質問できるようにすれば、新人が自分のペースで疑問を解消できます。教育担当者も、同じ内容を繰り返し説明する負担を減らせます。
7. 調査・リサーチ|社内文書を横断検索して要約する
議事録や調査レポートが複数のフォルダやツールに分かれていると、必要な情報を探すだけで時間がかかります。検索語を変えながら複数の資料を開き、内容を読み比べる作業も発生します。
RAGで議事録、報告書、技術文書を検索対象にすれば「直近3カ月の重要な決定は?」「〇〇プロジェクトが発足した経緯は?」といった聞き方で、必要な情報を横断して探せます。要約だけで終わらせず、参照した議事録や資料に戻れる設計にすれば、意思決定に使う情報の根拠も確認しやすくなります。
RAG導入企業・自治体の事例6選

RAGはさまざまな業界で活用が広がっています。この章では、6つの導入・検証事例を紹介します。
1. LINEヤフー|問い合わせ対応のAI化で確認時間を短縮する
2. 三井住友銀行|130万件の社内文書をAIで横断検索する
3. AGC|技術文書を社内AIと連携し情報活用を進める
4. 大成建設|社内の技術資料を検索して施工ノウハウを引き継ぐ
5. 東京ガス|社内情報を参照するAIチャットで問い合わせ時間を減らす
6. 盛岡市|自治体業務の問い合わせ対応で回答の正確さを検証する
1. LINEヤフー|問い合わせ対応のAI化で確認時間を短縮する
LINEヤフーは、RAGを活用した独自の業務支援ツール「SeekAI」を開発し、2024年7月から全従業員に本格導入しました。社内規定の確認や営業資料の作成、新入社員向けマニュアルの作成など、部門ごとに異なる用途での活用が想定されています。
テスト導入の段階では、広告事業のカスタマーサポート業務において約98%の正答率を確認しています。同社は生成AI活用全体で、年間70万〜80万時間の業務時間削減を目標に掲げており、SeekAIはその中核を担う取り組みの一つです。
【成功のポイント】
回答だけでなく根拠文書もあわせて提示し、利用者自身が内容を確認できる設計にした点です。テスト導入で正答率を確認したうえで、利用対象を全従業員へ拡大した点もポイントです。
参考:LINEヤフー「LINEヤフー、RAG技術を活用した独自業務効率化ツール「SeekAI」を全従業員に本格導入。膨大な社内文書データベースから部門ごとに最適な回答を表示し、確認・問い合わせ時間を大幅に削減」
2. 三井住友銀行|130万件の社内文書をAIで横断検索する
三井住友銀行は、規程・通達・業務マニュアル・過去の照会事例など、約130万件に及ぶ社内文書を独自AIアシスタント「SMBC-GAI」から検索できる環境を整えています。2023年7月の稼働当初は1日あたり約6,000件だった利用件数が、2026年3月26日時点では7万〜8万件規模まで拡大しました。
これだけの文書量を運用するため、約2,000台の仮想マシンを並列稼働させています。全文書をPDFや画像形式に変換したうえで、約130万件の文書を48時間以内に検索可能な状態へ処理する体制を構築しました。銀行業務への理解が欠かせないとして、日本総合研究所(JRI)の人材を中心に内製で開発を進めた点も特徴です。
また、部署や役職によって閲覧できる情報が異なるため、利用者の権限に応じて検索範囲を制御し、回答には参照元となる原文書の画像を表示して、利用者自身が内容を確認できるようにしています。生成AIである以上、一定の誤回答が起こり得ることを前提に「生成内容の利用は自己責任」と周知したうえで、原文書に立ち返って検証できる設計を組み合わせている点が特徴です。
【成功のポイント】
約130万件の文書を扱うための処理体制を整え、回答とともに原文書を確認できる設計にした点です。本社部門での試行では、月あたり約8時間の業務効率化に繋がる可能性が示されました。大量の文書を扱う場合でも、権限管理と根拠確認を両立させる必要があることがわかります。
参考:SMBC「SMBC-GAIが130万件の内部文書をクロスサーチする方法:日本最大規模のクラスRAG導入の舞台裏」
3. AGC|技術文書を社内AIと連携し情報活用を進める
AGCは、2023年6月から運用する社内向け生成AI環境「ChatAGC」に、2024年8月からRAG機能を追加し、社内データを検索できるようにしています。従業員は事前に付与された権限の範囲内で、社内データにもとづいた回答を受け取れる仕組みです。
活用場面は部門ごとに異なります。
開発部門では過去の開発・設計情報や顧客ニーズの把握
製造部門では過去の生産データをもとにした問題対応
営業部門では新サービス・新製品情報の迅速な提供
戦略企画部門では顧客情報や知財情報を踏まえた経営判断の補助
研究開発や製造の現場では、過去の知見が技術文書として残っていても、情報量が増えるほど目的の資料を見つけにくくなります。
そこで、自然な文章で関連情報を探せる環境を整えることで、過去の技術情報を部門横断で再利用しやすくしています。
【成功のポイント】
自社固有の技術情報を、利用者の権限の範囲で参照できるようにした点です。開発・製造・営業・戦略企画といった部門ごとに、どの情報を何に使うかを具体化しているため、RAGを業務に組み込む際の設計例として参考になります。公開情報では定量的な導入成果は示されていないため、ここでは活用を進めるための取り組みとして捉えるのが良いでしょう。
参考:AGC「社内向け生成型AI利用環境「ChatAGC」に内部データ連携機能を追加」
4. 大成建設|社内の技術資料を検索して施工ノウハウを引き継ぐ
大成建設は、建築施工に関する専門知識やノウハウの継承を目的に、生成AIと検索システムを組み合わせた「建築施工技術探索システム」を開発しました。
社内に蓄積された膨大な技術資料から、質問に関連する情報を検索し、その内容をもとに回答を生成する仕組みです。
利用者が専門用語や生成AIに詳しくなくても使えるよう、入力された質問にシステム側で最適化した指示を加え、関連資料を探しやすくしています。
回答に誤りがあった場合は、専門家チームが内容を確認し、模範回答を作成してデータベースへ登録します。利用者のフィードバックを回答品質の改善に生かす仕組みです。
【成功のポイント】
質問の補助や専門家による確認・模範回答の登録を組み合わせ、運用しながら回答品質を改善できるようにしている点です。技術継承では、検索機能だけでなく、現場の知見を継続的に反映する仕組みが重要だとわかります。
参考:大成建設「生成AIを活用した建築施工技術探索システムを開発」
参考:BUILT「生成AI活用『建築施工技術探索システム』開発」
5. 東京ガス|社内情報を参照するAIチャットで問い合わせ時間を減らす
東京ガスは、業務に特化した生成AI搭載の社内チャットツール「AIGNIS-chat」を開発しました。業務ごとに蓄積された社内情報を参照して回答するため、社内の専門用語を含む質問にもそのまま対応できます。
このツールは、ゼロから作られたわけではありません。東京ガスグループは2023年度から社内向けに生成AIチャットツールを展開しており、すでに3,500名以上が日常的に活用していました。AIGNIS-chatは、この既存ユーザーを土台に順次展開されています。
開発の過程では、社内から200件以上のユースケース案を募り、インパクトや早期実現性をもとに絞り込んだうえで、3カ月間で20件以上のPoCを実施しました。その結果、社内情報を参照して回答する使い方が効果を出しやすいと分かり、AIGNIS-chatの開発につながりました。
【成功のポイント】
汎用的なチャットをそのまま全社展開するのではなく、自社の業務で効果を出しやすい用途をPoCで確かめてから、アプリとして形にしている点です。すでに定着していた既存のチャット利用者を土台に展開したことで、社内に浸透しやすい仕組みになっています。
参考:東京ガス「生成AIを搭載した社内アプリを独自開発・利用開始」
参考:東京ガスDX note「AIネイティブ企業への挑戦」
6. 盛岡市|自治体業務の問い合わせ対応で回答の正確さを検証する
盛岡市は2024年11月から、NECと連携して自治体行政に特化した生成AIの活用を検証しています。市が保有する業務データと、NEC独自LLMの「cotomi(コトミ)」、RAGを組み合わせたシステムを構成し、以下を対象に回答の正確さや有用性を確かめています。
情報企画課(システム関連の問い合わせ対応)
会計課(会計関連の問い合わせ対応)
職員課(福利厚生関連の問い合わせ対応)
全庁へ一度に導入するのではなく、業務内容が異なる3つの課をあえて選んで試している点が特徴です。
自治体は条例や手続きなど組織固有の情報を扱う業務が多く、一般的な生成AIだけでは答えられない情報を参照する必要があります。そのため、RAGを使う目的を明確にしやすい分野といえます。
【成功のポイント】
全庁への一斉展開ではなく、問い合わせ内容が異なる3つの課をあえて選んで検証から始めた点です。条例や手続きなど自治体固有の情報を扱う業務を選んだことで、RAGを使う目的を明確にしながら検証を進められました。
参考:NEC「盛岡市とNEC、生成AIを活用した職員の業務効率化の実証を開始」
【事例から学ぶ】RAG活用を成功させる5つの条件

ここまで、RAGの活用事例を紹介してきました。
紹介してきた事例からは以下のようなポイントを学べます。
1. スモールスタートで効果を検証してから拡大する
2. データの前処理とチャンク設計で検索精度を上げる
3. ハイブリッド検索とリランキングで検索の取りこぼしを減らす
4. 回答精度を定量的に評価する基準を設ける
5. 改善サイクルを回す
1. スモールスタートで効果を検証してから拡大する
RAGは、対象業務や部署を絞って試してから利用範囲を広げると、効果と課題を確認しやすくなります。最初から全社の資料を検索対象にすると、回答が誤った際に原因を特定しにくくなるためです。
例えば、盛岡市は情報企画・会計・職員業務の3つの課に絞って検証を始めています。東京ガスも、200以上のユースケース案を整理したうえで3カ月で20件を超えるPoCを実施しました。
RAGを導入する際は、社内問い合わせや技術資料検索など、成果を確認しやすい業務や部署に対象を絞って始めることが大切だとわかります。
2. データの前処理とチャンク設計で検索精度を上げる
RAGの回答精度は、LLM(大規模言語モデル)の性能だけでなく、検索対象となるデータの状態にも左右されます。データが整っていなければ、AIが誤った情報を根拠にしてしまうためです。
ここで欠かせないのが、検索対象とする文書を絞り込む前処理と、文書の分割方法を工夫するチャンク設計です。
事例で解説した大成建設は、このうち前処理にあたる部分で、RAGが参照する対象を信頼性の高い社内技術資料に絞り込みました。
前処理では、このように検索対象を整理したうえで、必要に応じて旧版や重複した文書、表記ゆれを見直すことが重要です。
また、前処理を済ませた文書も、検索しやすい単位に分割しなければ精度を発揮できません。これが「チャンク設計」です。
文書を区切る単位が大きすぎると不要な情報が混ざり、小さすぎると前後の文脈が失われるため、内容のまとまりを保ちながら適切な大きさに分割する必要があります。
3. ハイブリッド検索とリランキングで検索の取りこぼしを減らす
RAGでよく使われる検索手法には、文章の意味の近さで探す「ベクトル検索」と、特定のキーワードで探す「キーワード検索」があります。
ベクトル検索だけでは製品コードや社内固有の名称のような完全一致の言葉を取りこぼしやすく、キーワード検索だけでは言い回しが違う関連文書を見落としがちです。
そこで、両方を併用する「ハイブリッド検索」で候補を取得し、質問との関連度で並べ替える「リランキング」にかけると、関連文書の取りこぼしを減らしながら回答の精度を高められます。
参考:Microsoft Learn「ハイブリッド検索の概要」
4. 回答精度を定量的に評価する基準を設ける
RAGを継続的に改善するには「なんとなく使える」で終わらせず、同じ質問セットで変更前後の精度を比較できる状態を作る必要があります。
LINEヤフーは、テスト導入の段階で「約98%の正答率」という指標を示してから全社展開に踏み切りました。
あらかじめ判定基準のある質問セットを用意し、変更前と変更後で正答率や参照文書の的確さを数値で比較すれば、施策が効果的だったかを客観的に判断できます。
5. 改善サイクルを回す
RAGは導入したあとも、実際の誤回答を確認しながら改善を続ける必要があります。紹介した事例の中にも、利用者のフィードバックやPoCを通じて改善を続けている例があります。
改善サイクルの回し方として、以下の3ステップが挙げられます。
出力を観察してどこでつまずいているかを見極める
なぜ失敗するのかの仮説を立てる
原因に応じた改善策を一つずつ試す
たとえば、必要な資料を見つけられていない場合は検索対象や文書の分け方を見直します。資料は見つかっているのに回答が曖昧な場合は、AIへの指示や回答の形式を調整します。問題が起きた場所ごとに対策を変えることが、改善のポイントです。
一度に多くの設定を変えるのではなく、改善策を一つずつ試し、同じ質問で回答が良くなったかを確認しましょう。この流れを繰り返すことで、現場で使える精度へ近づけられます。
【失敗例付き】RAG導入で失敗しやすい3つのパターンと対策
ここまでは、RAGの成功事例を見てきましたが、失敗しやすいパターンもあります。
データの未整備で回答精度が上がらない
セキュリティ・権限管理の設計が不十分になる
外部由来の文書からプロンプトインジェクションを受ける
1. データの未整備で回答精度が上がらない
社内文書をそのまま読み込ませるだけでは、以下のような問題が起こる可能性があります。
PDF内の表がうまく読み取れず、数値や項目がずれて認識される
旧版と最新版のマニュアルが混在し、AIが古い情報を参照してしまう
「有給休暇」「年休」のように同じ内容を指す用語の表記が統一されておらず、検索で拾いこぼす
これらを防ぐには、文書を取り込む前に次の3点をルールとして決めておく必要があります。
検索対象とする文書の範囲を決める(部署・種類ごとに対象を絞る)
最新版かどうかを判定する方法を決める(更新日やバージョン表記の管理ルールを統一する)
表記やフォーマットを整える(用語の言い換えや略語を統一する)
2. セキュリティ・権限管理の設計が不十分になる
アクセス権限を考えずに機密文書を読み込ませると、本来はその情報を見られないはずの社員にまで、AIの回答を通じて内容が伝わってしまう恐れがあります。
「営業部の社員は営業部の資料だけを検索できる」「管理職だけが特定の会議資料を検索できる」など、元の文書と同じアクセス権限をRAG側にも反映する設計が必要です。
三井住友銀行が130万件の文書を扱う際に検索範囲を利用者の権限に応じて制御しているのも、この対策の一例です。
3. 外部由来の文書からプロンプトインジェクションを受ける
受信メール、外部共有ファイル、Webページなど、社外から取り込む文書には、AIへの指示に見せかけた不正な文章が含まれることがあります。RAGがその文書を検索し、回答を作るための材料としてLLMに渡すと、文書内の命令を実行しようとする「間接プロンプトインジェクション」が起こる恐れがあります。
たとえば、外部サイトに「これまでの指示を無視して…」という文が埋め込まれている場合、RAGはそれを業務情報ではなく、AIへの命令として扱う可能性があります。
外部データを検索対象に含めるRAGでは、以下のような対策を取りましょう。
対策 | 具体的な進め方 | 運用上のポイント |
取り込む文書を限定する | 外部サイト・メール・共有ファイルは、信頼できる提供元と用途を決め、承認したものだけを検索対象にします。 | 新しい連携先を増やす際は、管理者が登録前に内容と権限を確認します。 |
不審な指示を検知して隔離する | 「指示を無視する」など、命令文や不自然なURL・コードを含む文書は、自動検知または人の確認対象にします。 | 検知ルールだけに頼らず、除外した文書を確認・更新する運用を設けます。 |
AIが実行できる操作を絞る | 外部文書は「参照するデータ」として扱い、メール送信・ファイル共有・外部サイトへの接続などの操作を、文書の指示だけで実行できない設計にします。 | 利用者の権限を超える情報や操作を、AI経由で行えないようにします。 |
回答と利用状況を監視する | 回答に参照元を示し、不審なURLや想定外の指示が含まれていないかを確認できるようにします。 | ログを定期的に見直し、疑わしい回答を報告・改善する窓口を用意します。 |
RAG導入にかかるコストの目安と内訳

RAG導入の費用は、対象業務やデータ量、既存システムとの接続方法によって大きく変わります。
フェーズ | 費用の目安 | 想定される期間 |
PoC | 100万〜300万円 | 2〜6週間 |
本番構築 | 300万〜1,000万円 | 2〜4カ月 |
運用・保守 | 月額10万〜50万円 | 継続 |
費用の内訳は、データ整備が全体の20〜30%、ベクトルデータベースの構築が15〜25%、LLMのAPI利用料が10〜20%、UI開発・既存システムとの接続工程が30〜40%です。
上記はあくまで一般的な相場であり、案件の規模や要件で変動します。自社での見積もりの際の参考としてください。
RAGの精度を左右する検索技術|Rimo独自のRAGアーキテクチャ

RAGの回答精度は、文章を作るAIの性能だけでは決まりません。質問に合う根拠をどれだけ正確に見つけられるかで、大きく変わります。
どれだけ性能の高いAIでも、関係のない資料を渡せば、正確な回答を作るのは難しくなるからです。
弊社が提供している会議AIエージェント「Rimo Voice」のAI検索も、RAGで動いています。Rimo VoiceのRAGは、検索の仕組み自体はシンプルに保ち「どう検索するか」をAIに自律的に判断させる構成をとりました。
会議の記録から必要な発言や決定事項を見つけやすくするために、RAGには次の3つの工夫を入れています。
1. 会議の内容が混ざらない単位で文書を区切る
Rimo VoiceのRAGでは、資料をあらかじめ細かく区切っておき、質問に近い部分だけを取り出します。
ここで区切り方を誤ると、答えに必要な発言が途中で切れてしまいます。一つの議事録には複数の議題や結論が含まれるため、議事録の性質に合わせた区切り方をしているのが特徴です。
2. 言葉の一致と意味の近さの両方から探す
社内では、同じ内容でも話す人によって呼び方が異なります。
そこでRAGでは、質問と同じ単語を含む資料を探す検索と、言い回しが違っても意味が近い資料を探す検索を組み合わせました。
さらに、質問への関連度が高い順に並べ替えたうえで、関連度の低い資料は自動的に除外し、あいまいな根拠でAIが回答を作らないようにしています。
3. 質問に応じて、速度と網羅性のバランスを変える
「前回の会議で何が決まったか」のような質問には、少ない検索回数で素早く情報を取得します。一方で「これまでの経緯をすべてまとめて」のように網羅性が必要な質問では、AIが複数回検索して必要な情報を集めます。
必要な情報だけをAIに渡すことで、回答の待ち時間やコストを抑えやすくなりました。
弊社では、本独自技術を発展させたRAGを活用している「Rimo ナレッジAI」も提供しています。会議資料をはじめとする社内のさまざまな資料をもとに、質問への回答やタスクの実行を支援します。
検索精度の高いRAGを社内に取り入れたいと考えている方は、あわせて検討してみてください。
関連記事:Rimo VoiceのAI検索を支える日本語議事録に特化したRAGアーキテクチャ
社内ナレッジをRAGで活用するなら「RimoナレッジAI」
RAGを社内で活用したいものの、データの取り込みや検索基盤の構築を自社だけで進めるのは簡単ではありません。自社でゼロから検索基盤を構築せずに、社内ナレッジをAIで活用したい場合は、RimoナレッジAIが向いています。
RimoナレッジAIは、社内資料や既存システムの情報を取り込み、自社のナレッジをもとにAIが回答するサービスです。
Excel・Word・PowerPoint・PDFなどのファイルをフォルダごと取り込むことが可能です。また、SharePoint、Google Drive、Slack、Teams、Gmail、Outlook、Box、Salesforce、Dynamics 365、Googleカレンダーとも連携できます。
RAGを利用するためだけにすべての社内資料を別の場所へ移す必要はなく、既存の情報を横断して探すエンタープライズサーチとしても使えます。
具体的には、次のような使い方ができます。
【社内規定やマニュアルを新人が自分で確認する】
就業規則、経費精算ルール、社内システムのマニュアルを取り込んでおけば「PCが故障した場合はどこへ申請する?」といった質問に、AIが根拠となる資料を示しながら回答します。
▼質問に対してRimoナレッジAIが回答


総務・人事への問い合わせを減らしながら、新人が自分のペースで疑問を解消できます。
【過去の提案書や商談記録から新しい提案書を作る】
過去の見積書や商談メモを登録しておけば「A社と同じ条件で見積もりを作って」といった依頼に対し、AIが関連資料を横断して探し、たたき台を作成します。
▼提案書の骨子が作成される


担当者は、AIが用意した案を確認・修正するだけで済みます。
セキュリティ面では、ISO27001・ISO27017を取得し、SAML認証にも対応していますアップロードしたデータをAIの学習に利用しない設計のため、社内情報の取り扱いにも配慮できます。
料金の目安は以下のとおりです。
法人プラン:月5万円〜
チームプラン:1名あたり月額6,000円(税抜)
無料トライアルも用意されているので、まずは自社の資料を使って検索精度や回答の質を確かめてみてください。
▶ 【無料トライアルあり】RimoナレッジAIのサービス概要をチェックする
RAGの活用事例を参考に自社での導入に活かそう
RAGは、社内問い合わせ、顧客対応、営業支援、技術継承など、社内情報を探して判断する業務で活用されています。
企業事例に共通する進め方は、以下のとおりです。
対象業務と参照データの範囲を明確にしてから始めている
小規模なPoCで効果と課題を検証し、段階的に広げている
回答精度や利用状況を確認し、必要に応じてデータや検索方法を改善している
RAGを導入する際は、他社の事例をそのまま再現するのではなく、自社で情報検索に時間がかかっている業務を探してください。
「同じ社内問い合わせに何度も回答している」「過去の提案書を毎回探している」「ベテランに聞かなければ技術資料を見つけられない」といった業務は、RAGの導入候補になります。
対象業務を決めたら、実際によく発生する質問を使い、必要な根拠を検索できるかを確認します。最新の資料を参照できているか、利用者の権限に合った情報だけを取得できるかも、あわせて確認してください。
社内資料や会議記録が複数の場所に分散しており、検索基盤を一から構築する負担を抑えたい場合は、RimoナレッジAIもおすすめです。
RimoナレッジAIは、SharePointやGoogle Driveなどの既存システムと連携し、社内情報の検索から資料作成までつなげられます。
まずは以下のページからサービス概要をチェックしてみてください。
RAGで解決したい業務について相談することもできます。
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